鬼上司は秘密の恋人!?
 
箱根の駅に着き、周りのお土産屋さんをぶらぶら回ってから、芦ノ湖を望める高台に建ったモダンで綺麗な造りの旅館にたどり着き、思わず息を飲む。

「わぁ! ここに泊まるの?」

タクシーを下りた途端、旅館を見上げ嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる祐一をなだめながら、石月さんのことを振り返る。

「石月さん、いいんですか? こんな……」

高そうな、という言葉は、出迎えてくれた旅館のスタッフの手前飲み込んだ。
私の驚いた顔を見ながら、石月さんは意地悪に微笑む。

「別に。お前のためじゃなくて、俺が泊まりたかったから選んだだけだ」

素っ気なく言われてしまえば、それ以上なにも言えなくて、「ありがとうございます」と頭を下げた。

「わぁい、トーゴありがとう」
「部屋に荷物置いたら風呂にいくぞ」
「うん! 男湯だね!」

うきうきしすぎて身震いする祐一の頭を、石月さんは笑いをこらえながらガシガシと乱暴になでてやる。
祐一の髪の毛をぐしゃぐしゃに乱したあと、その手が私の方に伸びてきた。
石月さんの長い指が、私のつむじをコツコツと軽く小突く。

首を傾げて見上げると、「疲れたか?」と優しく問われた。

慌てて首を横に振ると、片方だけ口端を引き上げ軽く笑う。
その表情が、どうしようもなく愛おしくて、胸が苦しくなった。

< 115 / 199 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop