鬼上司は秘密の恋人!?
広い温泉にひとりでゆっくりと浸かる。
まだ早い時間のせいか、浴場は比較的空いていた。
こうやってひとりでのんびり湯船に浸かるなんて一年ぶりかもしれないと思いながら、お湯の中で手足を伸ばし大きく息を吐き出した。
由奈が亡くなってからずっと、必死で祐一を育ててきた。
自分のことは後回しで、日々の生活に追われるだけで精一杯だった。
あっという間の一年間だったな、と思いながら露天風呂から空を見上げた。
秋が訪れて色づいた木の葉が、木漏れ日をちらちらと揺らす。
車の音も人の雑踏のとも無縁な、静かな空間。
風の音、草の揺れる音、温泉がコポコポと湯気をたて湯船にこぼれ落ちる音。
ゆったりとした空気を胸いっぱいに吸い込んで深呼吸をすると、それまでずっと力んで凝り固まっていた体が、ゆるりと緩んで解けていく気がした。
すると露天風呂を囲む竹垣の向こうから、賑やかな声が聞こえてきた。
「トーゴ、たいへん! そとにもおフロがっ!!」
興奮した祐一の声。囲いの向こうの男湯の露天に、祐一と石月さんがいるようだ。
「キョロキョロしてコケんなよ」
石月さんの声も聞こえ、驚いて息をひそめる。
「お騒がせしてすいません」
他に先客がいたんだろう。
石月さんが穏やかな声でそう言う。
そして微かに水音が聞こえた。
温泉に浸かる石月さんを想像して、なんだか顔が熱くなる。