鬼上司は秘密の恋人!?
 
「トーゴ、すごいね。男湯って、男しかいない!」
「当たり前だろ」

そんな会話を聞きながら、思わず吹き出した。
初めての温泉の男湯が嬉しいようで、はしゃぐ祐一に思わず頬が緩む。

あまりはしゃぎすぎて石月さんに迷惑をかけてなければいいけど。
なんて思いながら、露天風呂を囲う岩に頬杖をついて外の景色を眺めた。

「ぼくねぇ、おおきくなったら『せいぎのみかた』になりたいんだぁ」
「ふーん」

なんの脈絡もない祐一の言葉に、石月さんはのんびりと相槌をうつ。

「トーゴは大人になったらなにになりたかった?」
「んー、俺は編集者かな」

塀の向こうから聞こえる会話を聞きながら、石月さんは小さな頃からの夢を叶えたんだな、とぼんやりと思う。
柔らかな風が吹いて、頭上の木々がさわさわと音をたてた。
ひらりと落ちてきた一枚の葉が、温泉の水面に音もなく落ちて波紋を作る。

「なんで『へんしゅーしゃ』になりたかったの?」
「そうだな。小さい頃から本が好きだったからもあるし……」

祐一の無邪気な問いかけに、石月さんが少し黙り込む。ちゃぷんと水音が微かに聞こえた。

「例えば、いい話を知ったら、誰かに聞いてもらいたくなるだろ? 家族とか恋人とかに教えたくなる」
「うん」
「俺には誰もいないから、代わりに雑誌を通して誰かに何かを伝えたいのかもしれない」
「……うん?」

石月さんの言葉に、祐一は困ったように相槌をうった。
そんな祐一に石月さんが小さく笑うのが聞こえた。

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