鬼上司は秘密の恋人!?
 
慣れない浴衣と草履のせいか、足がもつれる感じがする。
それでも一生懸命足を動かし、ふかふかした絨毯敷の廊下を進んでいる途中で、はっとして足を止めた。

そういえば、客室どこだっけ?
同じような扉がずらりと並ぶ廊下をぐるりと見回して途方にくれる。
あれ、何号室だっけ?
しっかり覚えてるつもりだったのに、お風呂に浸かりすぎてのぼせたせいか、それとも慣れないお酒のせいか、頭がぼんやりして思い出せない。

……こまった、どうしよう。

廊下でひとり途方にくれていると、「大丈夫?」と通りがかった四十代くらいの男の人が声をかけてくれた。

「あ、自分の部屋がどこか分からなくなってしまって」

私が正直に言うと、「迷子になったんだね」とクスクスと笑われた。
いい大人が、旅館の中で迷子なんて情けなくて、思わずうつむく。

「顔が赤いけど、具合悪いの?」

俯いた顔を覗き込まれ、ますます頬が熱くなる。

「あ、いえ、日本酒の試飲を知らないで飲んじゃって」
「試飲で赤くなるくらい、お酒弱いの?」

面白がるような声色に、どんどん顔を上げられなくなる。

「首まで真っ赤になってるよ」

そう言われ、恥ずかしくて慌ててうなじを手で押さえると、後ろから「おい」と声をかけられた。
不機嫌そうな、低い声。

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