未来郵便 〜15年越しのラブレター〜
一番前の席にはお母さんの姿がある。
目が合うと、お母さんは「おめでとう」と優しく微笑んだ。

潤んだ大きな瞳。
目元にはいつの間にか皺が出来、歳をとったなって思う。

でも、私が大好きな柔らかな目元は昔と何一つ変わってない。

小さい頃、お母さんに目元が似てるね、って言われるのが凄く嬉しかった。


そして、隣りで完璧にエスコートしてくれるお父さんを横目で見る。

さっきまで新婦の私より緊張でガチガチに固まってたくせに、今はそんな様子一切ない。

堂々と前を見て、一歩一歩ゆっくりと確実に。

私を送り出そうとしてくれてる。

優しくて面白くて、いつだって頼りになって、家族を大事にしてくれる人だった。

お父さんの大きな背中が大好きだった。


長いようで短かったバージンロード。
その終着地点で止まると、お父さんは私の手を取る。

手袋越しでも伝わる偉大な父親の温もり。

この手で私達家族を守ってくれたんだ。

感謝の気持ちが込み上げてくる。


「娘を宜しくお願いします」

「はい」


お父さんは私の手を葉山の手に重ねた。

穏やかな笑みを浮かべて私を見つめる葉山。


この六年、色んなことがあった。
もちろんそれは楽しいことばかりじゃない。


付き合い始めた翌年、葉山が海外に三年間の期限付きで転勤になった。


突然訪れた遠距離恋愛。

葉山が中学を卒業してから九年間、一切連絡も取らなかったあの日々に比べたら三年間なんて短い。

この転勤は葉山のキャリアアップに繋がる重要な三年。

私のことなんか構わず仕事に集中してほしい。
私は私で葉山に負けないように仕事頑張らなくちゃ。

そう思っていたのに、葉山が旅立った次の日にはもう寂しくて仕方がなかった。




< 119 / 123 >

この作品をシェア

pagetop