狼少年、拾いました。
 怒りに乗せられて物を言ってはいけない、そう言い聞かせる自分を押しのけてミェルナは茂みをかき分け中へ足を強引に突っ込んでいった。


   *     *     *

 体が動かない。

 ゆるやかな風にこすれる葉、小鳥のさえずり、細くうなるように寄ってくる羽虫、荒く繰り返す自分の呼吸音……聞こえてくる全てが体に重く、重くのしかかってくる。

 (いつもこれだ。)

 望んで生まれたのではない、自分のこの体。

 どうしようもなく、大嫌いだった。

 いつになったら逃れることができるのだろうか。

 いつになったらきちんと自分のものにできるのだろうか。

 他の純粋なヒトのように、光を浴びることは叶わないのだろうか。

 しばらく、ぼうっとした頭の中で考えをとめどなく巡らせていた。

 意識が消えかけたその時、つい最近覚えた匂いが風に乗って鼻に届いた。


     *   *   *


 (わたしってほんと馬鹿だわ。)

 堅い木の幹についている、えぐられたような傷を横目に見ながらミェルナは心の中で呟いた。
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