狼少年、拾いました。
 離れたところにある何本かの木が同じように傷つけられていたり、なすりつけたように血の痕がついていたりしているところを見ると、例の血の主はまっすぐ歩いているわけではないようだ。

 あのレスクがいつもミェルナが横を通っている木にえぐるような傷をつけ、血をなすりつけたのだろうか。

 物騒なものは持っていたものの、彼のあの明るい笑顔や話し方は、今ミェルナが目の当たりにしている惨状にはとても合わなかった。

 (一旦、スティーヌの所へ戻ろうかしら。)

 スティーヌの透けた黒い顔がちらりとかすめた。

 だが啖呵をきったのは自分だということをすぐさま思い出し、なんだか戻るのはばつが悪くて、足を前へ進めた。

 血は先ほどのこびりついたような乾燥した感じはなくなり、だんだんと新しいものになっていく。

 その主のところまではそう遠くないのだろう。

 鼓動が速くなってきたその時、思わぬ方向から枝を踏む音がした。

 (本当に馬鹿だわ、わたしって。)

 現れた者の顔を見て、もう一度ミェルナは胸の中で呟いた。 
< 73 / 114 >

この作品をシェア

pagetop