次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 さっきよりもさらに直人との距離が縮まり、体温が伝わってくる。直人は私の体に頭を預けて俯いた。

「あまり男性と付き合ったことがないわりに、初めてキスしたとき、驚いてはいたけど、戸惑ってはいなかったから」

 いつもよりも力なく、発せられた言葉に私は目を丸くした。たしかに、直人の言うとおりかもしれない。いや、でも、ちょっと待って。

「なんで、私の恋愛経験について直人が知ってるの!?」

 そんなこと自分から話した覚えはもちろんない。キスしたら、そこまで分かるものなの!? しかし直人はあっさりと種を明かしてくれた。

「晶子の叔母が話してた」

 私は一気に脱力すると、わざとらしく天井を仰ぎ見た。私を心配してのことなんだろうが、そんな情報まで見合い相手に伝えることはないだろう。

 いや、見合いをしたあと? どちらにしろ、お節介極まりない叔母を心の中で恨めしく思った。

 直人は俯いたままでその表情は読めないが、後ろに回された腕は力強かった。その姿がまるで子どもで私はそちらに笑みが零れそうになる。口にするとまた拗ねられそうなので言わないけれど。

「実際はどうなんだ?」

 そこで現実に引き戻される。私はしばらく目線を泳がせてから観念した。見栄を張ってもしょうがない。

「高校の頃に一人だけ」

 今にして思えば、付き合っている、と呼べるほどのものでもなかったのかもしれない。でも彼との付き合いは、色々な意味で私の中に大きく残っている。それから私はわざとらしく明るい声で続けた。
< 102 / 218 >

この作品をシェア

pagetop