次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「俺のことを好きになりたい、って言ってなかったか?」

 その発言に私は狼狽える。でも、それを誤魔化すかのよう早口で続けた。

「心配しなくても、私は結婚にちゃんと納得してるから、それでいいじゃない」

「納得? 本当に?」

 直人の瞳はどこか冷たかった。なんで? これで直人の望みは叶ったはずなのに。これ以上、なにを望まれているのか分からない。

 いつのまにか、ソファから腰を浮かせた直人はゆっくりと身を翻し、私を正面から捉える形になっていた。その距離は随分と近い。

 じりじりとさらに詰め寄られ、私は無意識に距離をとろうと後ずさった。直人はなにも言わず、私から視線を逸らさない。

 そして、ソファの背もたれに背中がぶつかって、これ以上の逃げ場がなくなったことに、気をとられた瞬間――

 想像もしてしていなかった出来事が起こった、少なくとも私にとっては。肩を力強く掴まれたかと思ったら、背もたれに添って体を横に滑らされ、私の視界は、表情を崩さないままの直人と、天井がぼんやりと映っていた。

「直、人?」

 何度も瞬きをして、ややあってから私は不安げに名前を呼んだ。呼吸も鼓動も乱れている。この状況に頭がついていかず、脳も完全に酸素不足だ。そんな私をじっと見下ろしていた直人の唇がおもむろに動く。

「こういうことも含めて、納得しているのか?」

 私はこれでもかというくらい目を見開いた。経験がなくてもなにを言われたのかぐらいは理解できる。なにを求められていているのかも。この体勢だって映画でもお約束過ぎるパターンだ。
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