次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 栗林さんに今日の予定と行き先はちゃんと話していたので、タクシーでホテルに戻る。

 久々の焼肉につい食べ過ぎてしまったと反省しながらシャワーを浴びて髪までしっかり洗った。服についた匂いが気になるがこれは、どうしようもなさそうだ。

 バスルームから出た後、必要以上に時計を何度も確認していると携帯が音を立てた。

「直人?」

『今日はなにもなかったか?』

「うん、大丈夫だよ」

 こうしてホテル暮らしになってから、直人は短いながらも大体の決まった時間に連絡をくれる。ただ、それは婚約者同士のする甘さは微塵もなく、業務連絡のようなものだった。

 状況が状況なので、仕方ないかもしれないけれど。私よりも大変なのは当事者である直人の方だ。

 それを尋ねると、朋子から、自身も含め事務所を通してきっぱりと否定したが、迷惑をかけて申し訳ないという連絡があったことを話してくれた。

 そして、やはり自分の知らないところで、直接ではないかもしれないが、二人が連絡を取り合っていることに胸が痛む。私はなにもできず、こうしてホテルで過ごしているだけだ。

「私、叔母さんのところにしばらく行こうか?」

『急にどうした?』

「いや、ホテル代もかかるし。今日、航平に会ったんだけど、提案されて甘えようかなって」

『その必要はない』

 いつも以上にきっぱりとした物言いに、私は少しだけ怯んだ。

「でも、栗林さんにずっとこっちについてもらってたら、直人も困るでしょ? 直人の迷惑になるなら」

『迷惑なんて言ってないだろ。余計なことをされる方が迷惑だ』

 電話を持つ手が震える。電話の向こうで直人がはっと息を呑んだのが伝わった。
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