次期社長と甘キュン!?お試し結婚
『悪い。でも晶子は余計な気を回す必要はないんだ。俺の方こそ、不注意で随分と迷惑をかけているのに』

「直人は、悪くないよ」

 もちろん、朋子もだ。今回の件は誰が悪いというのはない。

『この埋め合わせは必ずするから』

「なら、早く帰ってきてよ」

 自分でも驚くほど、自然と言葉が出た。今の直人には難しいことなのに。それでも言ってしまったなら勢いに乗るしかない

「いくら映画が見放題でも、一人で観るの飽きちゃった。ホテル暮らしも落ち着かないし」

『そうだな、悪い』

 直人の声が少し和らいだのが分かった。そのことに安心して、本音を言ってみることにする。

「だから、マンションに帰りたい。直人に会いたい」

 最後はぎこちないながらも、なんとか言葉にできた。顔を見たら言えなかったかもしれないが、こういうとき電話というの便利だ。

『……明後日、一度そっちに戻る。あまり時間はないけど、顔ぐらいは出すよ』

「あ、ごめん。そんな無理させたいわけじゃ」

『いいよ、俺も晶子に会いたいから』

 その一言で私はなにも言えなくなった。なにかが溢れ出てきそうで、それを必死に抑える。本当に、顔が見えなくてよかった。

 直人は今、どんな顔をしているんだろうか。どういう気持ちで言ってくれたんだろうか。この状況を心配してのためだけかもしれないのに。それでも頬が勝手に熱くなって心臓が痛い。
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