次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「っ、全部白紙に戻すなら、私の出した条件も変えていい?」

 直人は少しだけ驚いた顔をしたが、なにかを口にする前に私は続けた。

「もしも、もしも私と結婚するなら、私のことを……好きになってくれる?」

 最後は懇願するように、一息に告げて、直人の答えを待つ。自分が変わればいいだけで、相手になにかを望むなんて、ずっと無駄なことだと思っていた。

 でも、私だって本当は、ずっと好きになってもらいたかった。結婚するから、じゃない。好きだから、結婚したい。そして、その相手は直人ではないと。

 苦しさで上手く息ができなくて、勝手に視界がぼやけていく。それでも直人が優しく笑ってくれたのは分かった。

「俺は、もうとっくに晶子しか見えていないし、晶子のことが好きだよ」

 その言葉が温かく胸に沁みていく。留まりきれなかった涙が頬を滑り落ちて、ゆっくりと唇が重ねられた。

 直人とのキスはもう何度目かは分からないのに、唇から伝わる温もりが心を落ち着かせてくれて、離れて欲しくなかった。

 ぎこちなく背中に腕を回すと、応えるように抱きしめる力を強めてくれる。名残惜しく唇が離れて、直人の指が頬についた涙の跡を拭ってくれた。直人の顔には困ったような笑みが浮かんでいる。

「それにしても、まさかこんな形で晶子が泣くところを見るなんて」

 久々に涙したことに、しかもそれが直人の前でということに私は急に恥ずかしくなった。眼鏡をはずして慌てて涙を拭おうと、手を目元に持っていこうとするが、直人に機先を制される。

 軽く手首を掴まれ、私は思いっきり狼狽えた。
< 175 / 218 >

この作品をシェア

pagetop