次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「とりあえず、詳しいことはあとで説明する。これから会議だろ?」

 つられて私も時計を確認する。たしかにあまり時間がない。

「それにしたって、なんでわざわざこんな……」

 こんなまどろっこしいやり方をしなくても。前みたいに携帯に連絡をくれたらいいのに。その言葉を飲み込んで、とにかく私は部屋を出ようと彼に背を向けた。

「ちょうど晶子のことを考えてたら、目の前に現れたから」

 思わずドアにかかっていた手を止めてしまった。なにそれ。

「私が振り向くまで、あそこで待つつもりだったの?」

 そんなはずない。分かっているのに、私は悔しくなって彼の方を見ないまま尋ねた。

「さあ? でも、振り向いただろ」

 すぐ後ろに彼の気配がした、と思ったら私の背よりも高いところでドアに手をつかれる。おかげで結局は彼の方に顔を向ける羽目になった。

 そして、思ったよりも近くに、ほんの少しだけ口角を上げて、こちらを見下ろしている彼がいた。その顔から目が離せない。

「それで、ちゃんと俺のことを追いかけて、探してくれた」

 私はどうやら彼の掌の上で転がされていたらしい。なにも言えずに目線を逸らすと、私は部屋を後にする。前と同じように駐車場で、との言葉を背に受け、乱れる心を落ち着かせようと必死だった。

 さっきはあんなに厳しい顔で素通りしたくせに。胸の奥がしめつけられる。これから会議なのにどうしてくれるのか。頭の中で一方的に彼のことを責めながら私は会議室を目指した。
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