次期社長と甘キュン!?お試し結婚
『連絡できなくて悪かった』

 なにかフォローしようかと悩んでいる間に、直人が真面目に謝ってくれた。結局、そのことに返事をして、自分の発言についてはなにも言えず、電話は終了した。電話を切ったあとで私はどっと項垂れる。

 なにこれ、翻弄されてる。あんなこと言ったのは、直人を待っているわけじゃなくて、映画を観るのを待っている、って意味だったのに。

 でも、それは具体的にどう違うのか。はっきりとしないまま、なんだか、いつもより心臓が脈打つのが速い。

 それにしても、最初にやりとりしたときは、どんな言葉を並べられても、そこには気持ちなんて入っていなかったし、笑っていても、冷めた目をしていたのに。

 これが直人の自然体なんだろうか。いや、そうだとしても、私があんな条件を出したから、なのだ。

 私と違って、直人はきっと異性の経験も豊富だろうし、ヨーロッパ生活も長かったみたいだから女性に優しくする術も身についている。

 おまけに次期社長として、色々な立場の人とやりとりしなくてはならない彼にとって、私の気持ちを靡かせるのなんて朝飯前だろう。

 見事に直人の思惑に嵌まっているな。ため息をついたところで、ふと我に返る。

 べつに嵌まったっていいのだ。私は彼のことを好きになりたいのだから。素直に靡いておけばいいのに。それなのにどこか素直に心を許せない自分もいて私の気持ちは波打っていた。
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