次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「晶子」

 名前を呼ばれて、ゆっくりと目を開ける。そこで状況を思い出し、私の意識は一気に覚醒した。慌てて顔を左右に振ると、声の主はすぐ隣にいた。

「ごめん、待ってた?」

「いや、そんなには」

 そんなに、ということは多少は待っていたんだろうか。直人は私の横に座って、先ほどとは違い、どこか心配そうな顔をしていた。

 待つ側から待ってもらう側へ立場が逆転し、申し訳なくなってくる。

「今日の依頼は急だったみたいだが、なんとか対応してくれて感謝している」

 かしこまった言い方に違和感を覚えたが、同じ台詞をさっき、部長にも告げたんだろうな、と感じた。

「私はそんなたいしたことはしてないよ。それに、現地でエージェントがちゃんと先方と落ち合うまでは、まだ依頼を達成したとは言えないし」

「正確には、そのあとのプレゼンが成功するまでは、だな」

 依頼内容は私が言ったことで間違いはないが、今後、付き合っていく会社としては、わざわざ間に入ったのだからここで先方同士、上手くいってもらわないと困る。直人が言っているのはそういうことなのだ。

「そうだね」

 なにかを含んだような笑みを浮かべる直人に私も笑って答えた。それにしても、やっぱり社長代理とは、なかなか大変のようだ。

 代理として取引先や提携会社の人たちと会食続きだったし、こうして仕事の面でも。そのことを口にすると直人は

「社長の代理をこなしているのは俺だけじゃない」

 と、ぶっきらぼうに言った。専務や他の役員たちのことを言ってるんだろうか。詳しく尋ねようとしたところで、ふと直人の手が私の頭に置かれた。そのまま撫でられて、なんだか妙に気恥ずかしくなる。
< 67 / 218 >

この作品をシェア

pagetop