次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「直人は、なんですぐにそうやって人の頭を触るの?」

 簡単に触りすぎだ、と非難の意味も込めて尋ねてみると、あっけらかんとした回答が返ってきた。

「晶子が似てるから 」

「似て、る?」

「そう、昔飼ってた犬に」

 緊張しながら尋ねたのに、まさか人でもないなんて。おかげで、犬? と、私はやはりおうむ返しで聞き直すことしかできなかった。

 直人は改めて肯定すると、おかしそうに笑って背もたれに体を預けた。

「子どもの頃、じいさんに頼んでラブラドールレトリバーを飼ってたんだよ。毛色は真っ黒で、名前は安直にラブ。俺が帰ってくるのをソファに座って、ちょこんと待ってたり、手で軽く合図するとちゃんと追いかけてきたり」

 それを聞いて、今まで直人が私にしてきたことは犬と重ねてだと思うと、腑に落ちる一方で、少し複雑な気持ちになった。

 そうか、私に躊躇いなく触れたりしていたのは、てっきり外国暮らしが長かったから、なんて思っていたが、それ以前に犬に触るのと大差ないものだったのか。

 そんな考えが頭の中で次々浮かんでいると、トーンダウンした声で、だから、と続けられた。

「死んだときは、めちゃくちゃショックだったよ」

 その声に、発言に、思い巡らせていた考えはどこかに吹き飛んでしまった。見れば直人は口元には笑みを浮かべながらも、悲しさを漂わせている。そして、わざとらしく遠くを見つめていた。
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