次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「たった一人の家族みたいなもんだったからな。じいさんは忙しかったし、シッターはいたけど、あくまでも仕事としての接し方だったから。だから、ラブが俺にとっての家族だった」

 両親もいなくて、引き取られた祖父も忙しくて。幼い直人がどんな気持ちで犬を飼いたい、とねだったのかと思うと、なんだか胸が締めつけられる。私は直人の横顔を食い入るように見つめた。

「死んだときは、とにかく悲しくて、たくさん泣いたよ。それこそ、じいさんに鬱陶しい! って怒られるまで。だから隠れてひとりで泣くしかなかったんだ。どうして俺をひとりにするんだ、なんで俺を置いていくんだ、って。なんで……俺は置いていかれてばかりなんだろうな」

 そこまで言うと、直人は不思議そうな顔でこちらを見た。無理もない、私が左手を伸ばして、直人の頭を撫でていたからだ。自分でもほぼ無意識のうちに行動していた。視線が交わったところで私は、直人の頭から手を離した。

「もしも結婚したら、私は直人をひとりにしないし、置いていかないよ! 私の方が年下だし、今のところ健康そのものだから、きっと直人よりも長生きするし!」

 男性より女性の方が平均寿命は長いしね、と勢いで付け加える。そして、あれこれ考える間もなく一息に捲し立てたあとは、静寂が二人の間に降りてきた。

 目を丸くしたまま固まっていた直人は、ややあってから結んでいた唇を緩めた。

「そんな同情のされ方は、はじめてだな」

「同情って……」

 今度は私が目を丸くする。そんな風に言われるのは心外だ。そう言い返そうとしたところで、いきなり直人が吹き出した。
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