次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 やっぱり直人は真面目だ。

 真剣に画面を見つめる彼の横顔をそっと盗み見する。途中から観て楽しいんだろうか。そもそもこの映画のチョイスでいいんだろうか。この状況を彼はどう思っているのか。

 映画を観ているのに、考えるのは隣にいる彼のことばかりで、おかげでちっとも集中できない。物語は佳境にさしかかって、思わず息を呑む展開だ。何度見ても心が苦しくなるシーンも多い。

 映画が終わって、私はどっと疲労感に見舞われた。映画の内容が重たかったのもあるが、それだけでもない。

 顔を横に向けると、直人は手で顔を覆って俯いている。ややあってから、長い息を吐いて顔をこちらに向けた。予想通り、その目は潤んでいて赤い。

 彼は気まずそうにすぐに顔を逸らした。今更、取り繕わなくても。

「この作品、泣ける映画としてもよく取り上げられてるし。泣きそうなら素直に泣いた方が……」

 一方的にフォローしていると、こちらに向き直った直人が軽く私の頭を小突いた。

「余計なお世話だ。そういう晶子は、泣いたりしないのか?」

 目は赤いが、声はいつもの調子だ。そして思わぬ質問に私は、困ってしまった。直人から視線を逸らして、わざとテレビ画面を見つめる。本当のことを言うのがなんだかすごく憚れてしまったのだ。なんたって

「私、あんまり泣いたことなくて。映画観て泣いたことも実は、ないんだ」

 強がりでも見栄でもなんでもなく、それは事実だった。映画を観て感動したこと、胸が苦しくなって、心が揺す振られることは、たくさんあった。それでも、映画を見て、私は涙を流したことがない。
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