イケメン富豪と華麗なる恋人契約
日向子は必死で首を左右に振る。

母から、父方の祖父母の話など聞いたこともない。ましてやあの母が、お金など受け取るはずがなかった。


(だって、自慢じゃないけど、うちってお父さんやお母さんが生きてたころから貧乏だったし……)


司法書士事務所に勤めていた父は、お金が貯まったら開業したい、と言っていた。再婚したときに会社を辞めた母は、晴斗を出産後、パート勤めを再開していた。それでも、家族五人の生活は豊かとは言いがたいもので……。


『家族が健康ならそれで充分! 生きていくのに必要なお金は働けばいいことだもの。お財布は空っぽでも、心にたーっぷり愛が詰まってるほうが幸せなのよ』


そう言って笑っていた母が、祖父から和解金をせしめるなど絶対にない。


「母親が母親なら、娘も娘だ。ひょっとして、無邪気なお嬢ちゃんの仕草も、男から金を引き出すための手管ですか? お母さんから、教わった、とか?」


千尋は美しく整った顔からは想像もできないほどの、醜悪な笑みを浮かべた。

大好きな母を愚弄され――日向子の中で張り詰めた糸がプツンと切れる。

次の瞬間、彼女は千尋の頬を平手で叩いていた。

パシンという小気味よい音が屋上に響く。弾みで、彼のつけていた眼鏡がコンクリートの床に落ちた。


「お金、お金って……あなた自身が、よっぽどお金に振り回されて見えるわ。そんな人に、母のことを侮辱されたくない!」


日向子が言い返すと、千尋は黙り込む。


「それに、お祖母さんが入院していたって言うなら、パパのときはどうなるの? パパが入院したとき、お祖父さんは助けてくれたの? お見舞いにも来ないまま、パパのこと――実の息子のことを見殺しにしたくせにっ!」


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