君と罪にキス【加筆修正・番外編追加】



元気な春子ちゃんの後ろには、散り始めている桜。


潔く散っていく刹那的情景がいい、儚さが美しいのだと言う人もいるけど、私は出来ればいつまでも咲いていてほしいと思う。


「春子ちゃんはせめて夏の終わりまで咲いててね」


「これ、そんなに長い間咲くんだ?」


「っえ、え!?」


急に背後から声をかけられて驚いたせいで、カツンとミニジョウロを床に落としてしまう。


「あ、いきなりだったからびっくりさせた?ごめん」


ドクドクドク、不規則に脈打つ心臓は落ち着きそうにない。一瞬本気で心臓が止まるかと思った。


「ほら、ジョウロ」


屈んで私が落としたジョウロを拾い、流麗な笑顔を向けてくれたのは。


「い、伊織君」


夕焼けの茜色のせいか、ミルクティーの髪が淡くオレンジ色に染まっている。


とても綺麗な色に目を奪われていたけど、そうじゃなくて。


何故、伊織君がここに。


「この花、誰も水あげてないのによく咲いてんなって思ってたら、森野さんが世話してくれてたんだ」


「う、うん。元気に咲いてくれると……嬉しくて」


< 16 / 209 >

この作品をシェア

pagetop