君と罪にキス【加筆修正・番外編追加】
伊織君はへぇ、と呟いてマーガレットを興味深そうに観察する。
長い睫毛が頬に影を落とす。
「これ、何て名前の花?本当に夏の終わりまで咲く?」
パッチリとした大きな瞳を好奇心であふれさせている。なんだかその瞳が眩しくて、思わず視線をそらした。
「マーガレットの春子ちゃんだよ。丁寧にお世話すればそのくらいまで咲いてくれる、はず」
いまだこの状況に追いついていない頭を無理矢理働かせて、言わなきゃいけない最低限のことを説明する。
今落ち着けと言われても、伊織君とちゃんと話すのはこれが初めてだから無理だ。
1年のときからクラスは一緒だけど、伊織君は言わずもがないつも皆に取り囲まれているような存在。
その伊織君とはこのままろくに話すこともなければ、もう名前すら呼んでもらうことはないんじゃないかと思っていたから。
窓から差し込む夕焼けの光を纏う姿が眩しくて、伊織君以外のものが霞む。
「森野さんのおかげだな、春子ちゃんが元気なの」
ミルクティーとオレンジが混ざる絹糸のような髪が、そよ風で白い肌を滑った。目を、奪われる。