君と罪にキス【加筆修正・番外編追加】
「水あげる以外は特に何もしてないんだけどね」
「大切なことじゃん。水やり」
伊織君が動く度に香水のバニラの香りが鼻腔を掠める。
甘い。
「あー!伊織、まだ教室にいたのかよ」
ふわふわと体が浮いている感覚から、一気に現実に引き戻された。
途端に視界がクリアになり、周りの音も鮮明に聞こえてくる。
「一緒に帰るって約束したのに、何やってんだ」
「あ、待ち合わせ玄関か。教室だと思ってた」
そっか、伊織君は柚月君と待ち合わせをしていたからまだ校内に残っていたのか。
教室に来たのは、柚月君との待ち合わせ場所がここだと思い込んでいたから。
「早く帰るぞー」
「類、ごめんって」
「お前ほんとマイペースな!」
「今更それ言われてもね」
騒ぐ柚月君の背中を押して教室を出ていこうとする伊織君。
もう帰っちゃうの、と言いそうになった自分に何考えてるんだと叱咤する。
「森野さん」
伊織君の凛とした、それでいてとろりと甘いそれで名前を呼ばれて弾かれたように顔をあげる。