君と罪にキス【加筆修正・番外編追加】
「じゃあね」
ひらり、と軽く手を振ってくれる。
「うん。ばいばい」
返事をすると、にっこり微笑んで柚月君と共に教室を出ていってしまった。
―――バニラの香りを、置き去りにして。
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伊織君はよく放課後教室に残るようになった。
マーガレットの水やりを見るために。
でもそれは気まぐれで、来ない日が続くこともあればたまに友達を連れてくることもある。
伊織君が柚月君に『これの名前、春子ちゃんだから』と教えると『ネーミングセンスの欠片もないな!』とお腹を抱えて笑っていたっけ。
正論だけど先生に失礼だ。
「今日は暑かったから水多めにあげた方がいいんじゃない」
「そうだね、土も乾いちゃってるし」
「春子ちゃんお水ですよー」
「餌やりみたいな言い方だね」
今日もいつも通り椅子に座り机に突っ伏しながら私が水をあげる様子を眺めている。
伊織君は自分で水やりをやろうとしない。