君と罪にキス【加筆修正・番外編追加】
春子ちゃんから伊織君に顔を向けると、どちらかが少しでも動けば唇が触れる距離に。
伊織君の指が私の髪を梳いて、それから輪郭をなぞる。
その仕草に目を細めると、柔らかい唇がふってきた。
でも、いつもの口づけとは何かが違う。なんだろう。
目を開けて伊織君を見るとどこか寂し気な顔をしていて。
その顔、知ってる。前にも一度、こういう表情の伊織君を見た。
私の気のせいかもしれない—――いや、気のせいだと思いたいけど。
伊織君は私じゃない誰かを、その瞳に映してる感じがして。
でも深く考えるのが怖くて、ひたすら蜂蜜のような甘さを享受した。
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古びたドアを開ければ、生温かい風と共に燃える紅と夜の訪れを告げる藍色がグランドや校舎を侵食してる光景が飛び込んできた。
息を飲むほど、美しい。
何か考え事をしたいときはここに来ると落ち着く。
「静かだなぁ」