君と罪にキス【加筆修正・番外編追加】
伊織君は誰もが見惚れる笑顔を徐々に崩して、困ったように眉を下げる。
きっとこういうことを聞いたのは、私が初めてなんじゃないかな。
「それは」
伊織君、早く違うって言って。否定して。私の勘違いだよって、ほら。
…………どうして、何も言ってくれないんだ。
ツキンと心臓を針で刺されたような痛みに、唇を噛みしめる。
「伊織君」
呼ぶと、やけにゆっくりした動きで顔をあげ、何かを決意した表情で口を開く。
「森野さんの、言う通り」
それは、つまり。
本当に、私と誰かを重ね合わせていたと。じゃあ、じゃあ。
私は本当の意味で伊織君の綺麗な瞳には映っていなくて。
繋がりが確かにあると思っていたのも私だけで。
そんな、嘘だ。嘘。
幸せだと感じていたこの刹那の時間は。特別になれるんじゃないかと錯覚することが出来た空間は。
全部。
何の、意味も……なかった?
「だったら、いっそのこと」
目の奥が熱い。
「……嫌いって。嫌いって言って」
パンドラの箱を開けた代償は、大きすぎた。