君と罪にキス【加筆修正・番外編追加】
「そんな、そんなのっ……じゃあ、誰と重ねてたの?」
自分でも情けないくらい、貧弱な声だった。でも今はこれが精一杯。
伊織君とは付き合ってるわけでもないから自分を振ってくれ、とも言えなくて。その現実にまた胸を突き刺される。
「俺の」
虚しさに溢れた表情と声だった。
「――姉ちゃん」
伊織君の、お姉さん?どういうことだと疑問が押し寄せた。
「俺には1つ上の姉ちゃん……亜紀がいた。本気で、愛してた。亜紀も俺のことを男として愛してるって言ってくれてて」
伊織君にはもう、大切な人がいたんだ。
「亜紀は、何でも受け入れる人だった。ちゃんと人のことを受け止めた上で人のために何かしてあげようって、いつも行動する」
ぽつり、ぽつりと語られる、伊織君の内側の話。
伊織君の殆どのことに「いいよ」と言う性格は、お姉さんの影響が少なからずあったのか。
「そんな亜紀のことが、いつの間にか好きになってて。守ってやりたいって、思ってた。自分の気持ちをぶつけた時も、からかわないで真剣に受け止めて応えを出してくれた」
本来なら、タブーなこと。分かったうえで、お姉さんも応えた。
「……すっごい楽しくて、毎日笑ってた」