君と罪にキス【加筆修正・番外編追加】
伊織君の話は、全て過去形で語られる。足の先から冷えていく感覚に襲われた。
「でも、亜紀は…………事故に、あっちゃったんだ。俺が中2の時。救急車で運ばれて入院」
伊織君の顔がくしゃり、崩れて哀しみの色に変わる。
伊織君の傷は、今となってもまだ癒えてないんだろう。
途切れ途切れになる伊織君の話を促すことはせず、次の言葉を紡いでくれるまで待つ。
「事故の後遺症のせいで寝たきりの生活だったけど、調子がよかったら少し話せた」
もう少しで、夕焼けの茜色が完全に藍色にのみ込まれる。
「そのとき『私は伊織のこと、ずっと愛してる。いつまでも、何があろうとも。愛してるよ』って言って」
生温かかった風が、冷たくなっていた。
「でも……それが、最後の言葉だった。次の日容態が急変して、頑張って治療したけど亜紀は……亜紀は、いなくなっちゃった」
痛い、痛いよ。
私が伊織君の立場なら、その事実を受け入れるのにいったいどれだけの時間を要するのだろう。