イジワル御曹司に愛されています
バスルームの入り口で、ドア枠を握りしめてそれ以上の進行を阻んだ私に、ちょうどライトのスイッチに手を置いていた都筑くんが、眉を上げてみせた。
「いいけど、後悔するなよ?」
「え?」
後悔した。
暗いバスルームというのが、あんなに不健全な空気を醸し出すものだなんて、知らなかったのだ。
ほのかに差し込む廊下のフットライトが、都筑くんのきれいな身体に陰影を作る。呼吸の音すら響く、じっとりと温まった密室。
濡れた唇がひっきりなしに押しつけられて、泡にまみれた手がさも正当な権利のように、自信満々にとんでもないところを探る。
降り注ぐシャワーで泡が流れると、またぬるりとそこを手がなでる。息が上がって、高まる動悸で目がくらみそうになって、ずっとしがみついていたら、「ほら見ろ」と満足げにバカにされた。
借りたスエットの上下を、あちこち折り返したり紐を締めたりしてなんとか身体に合わせて着た私を、「かわいい」と都筑くんが嬉しそうに眺める。その恰好にパンプスは履けないので、靴箱をあさった結果、ビーチサンダルを貸してくれた。
コンビニへの道でも、彼は手をつないできた。なにこれ、と私は途方に暮れた。
なにこの幸せな時間。こんなつもりじゃなかったのに。
道行く間にも落とされるキス。食べるものを買って、戻って食べて、片づける間もなく長い腕が絡んできて、最後に飲んだコーヒーの味のキスをする。舌が触れた瞬間、向こうの身体が熱くなっているのがわかった。
遊ぶと言っていたから、覚悟していたのに。やっぱり都筑くんはどこまでも優しくて、私を扱う手は丁寧で、いつも私の反応を気にしてくれていて、でも時々いきなり意地悪をする。
すねてみせるほどの経験値がないせいで、正直にうろたえてしまう私を、「ごめん、かわいい」の言葉で溶かす。見下ろしてくる、熱く潤んだ目。
なんでそんな、切なそうに見るの。
ただ、忘れてくれたらよかっただけなのに。家のこととか、お父さんのこととか。せめてこの夜の間だけでも、考えずにいてくれたらと思っただけなのに。
「千野…」
どっちの熱かわからなくなるくらい、汗ばんだ身体をぎゅっとくっつけて、私を抱きしめて揺さぶる。途切れ途切れに吐き出させられる呼吸の中、「なに」となんとか答えてみても、続きはなく。ただ甘い声で、私を呼ぶ。
こんなふうにされてしまったら。
私のほうがなにか、もらってしまった気になるよ。
薄明るい部屋の中、都筑くんは目を開けていた。
私が目を覚ましたのにも気づいていないんだろう、ベッドに仰向けになって、向こうの腕を枕にして、じっと天井を見つめている。
「いいけど、後悔するなよ?」
「え?」
後悔した。
暗いバスルームというのが、あんなに不健全な空気を醸し出すものだなんて、知らなかったのだ。
ほのかに差し込む廊下のフットライトが、都筑くんのきれいな身体に陰影を作る。呼吸の音すら響く、じっとりと温まった密室。
濡れた唇がひっきりなしに押しつけられて、泡にまみれた手がさも正当な権利のように、自信満々にとんでもないところを探る。
降り注ぐシャワーで泡が流れると、またぬるりとそこを手がなでる。息が上がって、高まる動悸で目がくらみそうになって、ずっとしがみついていたら、「ほら見ろ」と満足げにバカにされた。
借りたスエットの上下を、あちこち折り返したり紐を締めたりしてなんとか身体に合わせて着た私を、「かわいい」と都筑くんが嬉しそうに眺める。その恰好にパンプスは履けないので、靴箱をあさった結果、ビーチサンダルを貸してくれた。
コンビニへの道でも、彼は手をつないできた。なにこれ、と私は途方に暮れた。
なにこの幸せな時間。こんなつもりじゃなかったのに。
道行く間にも落とされるキス。食べるものを買って、戻って食べて、片づける間もなく長い腕が絡んできて、最後に飲んだコーヒーの味のキスをする。舌が触れた瞬間、向こうの身体が熱くなっているのがわかった。
遊ぶと言っていたから、覚悟していたのに。やっぱり都筑くんはどこまでも優しくて、私を扱う手は丁寧で、いつも私の反応を気にしてくれていて、でも時々いきなり意地悪をする。
すねてみせるほどの経験値がないせいで、正直にうろたえてしまう私を、「ごめん、かわいい」の言葉で溶かす。見下ろしてくる、熱く潤んだ目。
なんでそんな、切なそうに見るの。
ただ、忘れてくれたらよかっただけなのに。家のこととか、お父さんのこととか。せめてこの夜の間だけでも、考えずにいてくれたらと思っただけなのに。
「千野…」
どっちの熱かわからなくなるくらい、汗ばんだ身体をぎゅっとくっつけて、私を抱きしめて揺さぶる。途切れ途切れに吐き出させられる呼吸の中、「なに」となんとか答えてみても、続きはなく。ただ甘い声で、私を呼ぶ。
こんなふうにされてしまったら。
私のほうがなにか、もらってしまった気になるよ。
薄明るい部屋の中、都筑くんは目を開けていた。
私が目を覚ましたのにも気づいていないんだろう、ベッドに仰向けになって、向こうの腕を枕にして、じっと天井を見つめている。