イジワル御曹司に愛されています
マンションの前で、反対方向へ別れた。都筑くんは黒いスーツ。いつも通り、手を振る私に笑顔だけ向けて、駅のほうへ歩いていく。
家への道を少し歩いて、振り向いた。小さくなった背中。
帰ったら連絡ちょうだいね、と言いたかったけれど言えなかった。駅まで一緒に行きたかったけれど、できなかった。だってもう夜は終わったのだ。
細い路地を折れる前に、未練がましくもう一度振り向いた。
まさかと思った。向こうも肩越しに、こちらを見ていたからだ。
だいぶ距離があるけれど、笑ったのがわかる。私が手を振ると、同じように片手を振ってくれる。
すぐに彼が曲がっていってしまった角を、しばらく見つめていた。
ひとりぼっちの都筑くん。
彼自身は、なにひとつ悪くないのに、敵意に囲まれて、それでも人を信じることをやめたりせず、こうして信頼を傾けてくれる。そのまっすぐで強いところが、かえって危うくて、でもすごくきれいだと感じる。
都筑くん、好きだよ。
もう無理、ごまかせない。
私、あなたが好きだよ、都筑くん。
* * *
『すごい騒動だったみたいよ』
「そうなんだ…」
都筑くんが家に帰ってどうなったかは、本人からでなく、噂話として届いた。
わざわざそれを教えるために電話してきてくれたあかねが、同情的なため息をつく。
『その叔父さんて人はね、なんていうか、会社の汚れ部分の担当だったらしくて、危ないところとのつきあいをまとめてたんだって。その関係者が、葬儀の日にこれ見よがしにお祝いに来てるわけ、ずらっと黒塗りの車停めて』
「悪趣味すぎるね」
『喪主は都筑のお母さんなんだけど、それに文句を言うわけでもなく、愛想振りまいて。事情のよくわかっていない参列者は、首をひねるばかりだったってさ』
ベッドの上でクッションを抱いて、私もため息をついた。お母さんとの関係も、好転の兆しはなし、か。
「都筑くんがそこに行けたかは、わかる?」
『無理だったんじゃないかなあ、前日の騒ぎがあったし』
「そうかあ…」
家への道を少し歩いて、振り向いた。小さくなった背中。
帰ったら連絡ちょうだいね、と言いたかったけれど言えなかった。駅まで一緒に行きたかったけれど、できなかった。だってもう夜は終わったのだ。
細い路地を折れる前に、未練がましくもう一度振り向いた。
まさかと思った。向こうも肩越しに、こちらを見ていたからだ。
だいぶ距離があるけれど、笑ったのがわかる。私が手を振ると、同じように片手を振ってくれる。
すぐに彼が曲がっていってしまった角を、しばらく見つめていた。
ひとりぼっちの都筑くん。
彼自身は、なにひとつ悪くないのに、敵意に囲まれて、それでも人を信じることをやめたりせず、こうして信頼を傾けてくれる。そのまっすぐで強いところが、かえって危うくて、でもすごくきれいだと感じる。
都筑くん、好きだよ。
もう無理、ごまかせない。
私、あなたが好きだよ、都筑くん。
* * *
『すごい騒動だったみたいよ』
「そうなんだ…」
都筑くんが家に帰ってどうなったかは、本人からでなく、噂話として届いた。
わざわざそれを教えるために電話してきてくれたあかねが、同情的なため息をつく。
『その叔父さんて人はね、なんていうか、会社の汚れ部分の担当だったらしくて、危ないところとのつきあいをまとめてたんだって。その関係者が、葬儀の日にこれ見よがしにお祝いに来てるわけ、ずらっと黒塗りの車停めて』
「悪趣味すぎるね」
『喪主は都筑のお母さんなんだけど、それに文句を言うわけでもなく、愛想振りまいて。事情のよくわかっていない参列者は、首をひねるばかりだったってさ』
ベッドの上でクッションを抱いて、私もため息をついた。お母さんとの関係も、好転の兆しはなし、か。
「都筑くんがそこに行けたかは、わかる?」
『無理だったんじゃないかなあ、前日の騒ぎがあったし』
「そうかあ…」