イジワル御曹司に愛されています
片手をポケットに入れて、頭上の広告を読んでいる姿は、改めて見ると周囲から浮いていると言っていいくらい整っている。長身をほどよく覆う肉のおかげで、危なげない身体つき。

なんでかな、その下の肉体を一度知ってしまうと、服を着ているほうが、裸よりも色っぽく見える。スーツって、というかワイシャツとスラックスって、案外身体の線が出るものなんだ。

前を留めていない上着からのぞく、わき腹からウエストのあたりとか、よく考えたら薄い布一枚に覆われているだけの腿のラインとか。

気づけばあからさまに見入っていたらしく、本人がじっとこちらを見ていた。


「エロいこと考えてるの、顔でわかるからな」

「えっ!?」


一瞬で燃えるように熱くなった顔を、思わず手で隠す。都筑くんが目をしばたたかせ、次いでなんともいえない居心地悪そうな表情で、耳を赤くした。


「あ、…なに、マジで?」

「いやっ、違う違う、誤解。見てたけど、誤解」

「あの、ほんと、あのときはサンキューな。俺、後から考えたら、お前の厚意に甘えて調子乗りすぎたんじゃないかって、若干思ってて」

「う、ううん、こっちこそ、あの、もったいないくらいの」

「もったいない?」


口がすべって、目を丸くされてしまった。「なんでもない」と雑にごまかし、窓の外に目をやって時間を稼ぐ。隣から凝視されているのを自覚しつつ、知らんぷりして火照った顔を手であおいだ。

そこからの時間は、なんとも気まずいというか、むずがゆいものだった。


「はい、修正内容確認しました、こちらでいただきます」

「増えてしまって悪いね」

「本番でお話されやすいことが一番ですから。気になる点は今のうちに、すべて吐き出してしまってください」


原稿用紙を整えながら、都筑くんが微笑む。

書籍や資料が山積みの研究室で、狭いスペースに置かれた丸椅子に座り、私たちは先生の歓待を受けていた。

こちらも前回先生からもらった意見を吸収した資料を提出し、細かくチェックしてもらう。合格点が出たときは、ほっとした。


「この修正は、協会さんが?」

「いえ、ビジョンさんです」


私は首を振り、都筑くんのほうを手で示した。先生が彼を見て、「ほう」と眼鏡越しに目を細める。
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