イジワル御曹司に愛されています
「好きなの、つ、都筑くんが」


心臓が破裂しそうなくらい鳴っている。額の冷たい汗を指先に感じながら、どこまで言えば伝わるのかわからなくて、必死にしゃべった。


「あの、できたらこれからも、一緒にいたいの。会社が変わって、同じ仕事することがなくなっても」


息が上がる。


「ダメかな…」


ダメかな、都筑くん。そんな夢を見たら。

好きなの。隣にいたいの。

私じゃ、ダメかな。

伝えることに一所懸命になるあまり、返事がないことに気づいたのは、だいぶたってからだった。ドキドキして、自分の見ているものすら理解していない時間が続いたので、どのくらいそうしていたのかわからない。

なにかが一周して、ふと気持ちが落ち着き、上を見た。

都筑くんの表情で、すべてを悟ることができた。


「千野…」


青ざめた、と言うのが近いくらい、愕然とした顔の都筑くん。震える声で、「俺」と言ったきり、声を詰まらせる。

穴が開くほど私を見ていた目が、ふと大きく揺らいで、つらそうに閉じられた。


「俺、あんなことしておいて…ほんと、最低なんだけど」


あ、これ、言わせちゃダメだ。言ったら都筑くんまで痛いやつだ。言わせたのは私なのに。

そう思うのに、声が出ない。

さっきの私とそっくり同じに、都筑くんが片手で顔を覆った。


「ごめん」


うつむいて、絞り出される声。


「ごめん、千野は、そういうんじゃない」


私は見知らぬ景色に憧れるあまり、考えるのを忘れていたのだ。

一歩踏み出したら、踏み出す前にはもう、戻れないんだってことを。


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