イジワル御曹司に愛されています
鋭い電子音が、室内の緊張を切り裂いた。

はっとした都筑くんの拘束が緩んで、私は顔を上げた。ひょろっと氏が、緊張した面持ちで怜二さんに携帯を渡すところだった。

なにも言わずにそれを耳にあて、相手の言葉に聞き入っている彼の顔に、だんだんと険しさが増し、焦りのようなものも見え隠れしはじめる。

やがて携帯を投げ返すと、「帰るぞ」と忌々しそうに吐き捨てた。


「どうしたんですか、怜二さん」

「説明は後だ。とにかくここを出る」


まさに鶴の一声で、気がついたときには、私と都筑くんしかいなかった。狐につままれたような気分で、お互い呆然と座り込んだまま。

…いったいなにが起こったの?

私は右手に、奪い取ったペンをまだ握っていて、それと荒らされた部屋の惨状だけが、今さっきの出来事が嘘じゃなかったと教えてくれる。

都筑くんが、はーっと息を吐いて、ベッドに顔を伏せた。それを見て、そうだ、と思い出し、肩を叩いてねぎらう。


「あの、やったね。書かないって、伝わったね、きっと」

「やったねじゃねーよ」


ぎろっとにらまれ、あれっ…と戸惑った。


「でも、よかったよね、がんばって言えて」

「なに考えてんだよお前。あそこであんな、叔父さんの神経逆なでするようなこと言うとか」

「だって、実際、お父さんが」

「なにかあったら、どうする気だったんだよ!」


えええ…怒られた。


「えっと、都筑くんが守ってくれるかなって」

「できるか、5対1だぞ」


顔怖い、怖い。


「そしたら、一緒に戦おうかなって…」


もじもじしながら言った私を、都筑くんがじっと見る。心底呆れたような、腹立たしげな顔で、片手をこちらに伸ばした。
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