イジワル御曹司に愛されています
「赤くなってる」

「あ…部屋に放り込まれたとき、打ったかな?」


指でこすられたのは、頬骨のあたりだ。そういえば、ちょっとひりひりする。

痣にならないといいなと考えていたら、その手が首の後ろに回り、私を引き寄せた。そのままぎゅっと抱きしめられる。

私の匂いでも確認しているみたいに、首筋に顔を埋めて、深々と息をつく。私はどうしたらいいのかわからず、迷った末、両手を向こうの背中に回した。

しがみついた瞬間、びくっと反応がある。


「都筑くん、震えてるよ」

「気が抜けたんだよ…」

「そんなに怖かった?」

「怖かったよ」


顔が離れ、間近で目が合った。


「千野が傷つけられたらと思うと、死ぬほど怖かった」


にらみつけるような目つきの中に、確かに彼の抱いた恐怖の名残を感じる。

それでも「書かない」って、言ってくれたんだね。私の言葉を信じて、勇気を出してくれたんだね。


「よくがんばりました」

「なめてんの?」


ふふっと笑ったとき、なにか目に見えない力が働いて、私たちは吸い寄せられるようにキスをした。

唇が触れる瞬間まで、お互いの目を見ていた。本当に無事なんだよねって、確かめ合うみたいな、強く強く押しつけるキス。


「叔父さん、どうしていきなり帰ったんだろうね」

「さあ…急な用でもできたとか」


ここまで押しかけてきておいて、そんなことで退散する?

ふたりして首をひねりつつ、またキス。お互いの身体に腕を回して、しっかりと抱きしめ合って。

そうしているうちに、今さらドキドキしてきた。あれ、ふたりっきりの部屋で、なんでこんなことしているの。

でも気分としては、当然だけど悪くないよね…。
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