イジワル御曹司に愛されています
「はい、わかっただろ、帰れ」

「帰りません」

「あのさあ」

「ど、どうにもできないんなら、無理しなきゃいいじゃない」


こんな色気のない言い方しかできない、へたくそな自分を呪いながら、向こうのシャツをつかんだ。そういえば部屋着以外の、都筑くんの私服を見たのは初めてなのだ。シンプルで似合っている。スタイルがいいのがよくわかる。


「あのな、誰のために我慢してると」

「が、我慢なんか、しなくていいじゃない」

「お前、話聞いてた?」


不機嫌に私の顔をのぞき込む、その目が驚きに見開かれる。私の表情から、なにを読み取ったんだろう。心のままであることを願うけれど、それはそれで恥ずかしい。


「おい…」

「ご、ごめん」

「謝らなくていいけど…」


久しぶり、このやりとり。

途方に暮れたような声。いたたまれず両手に顔を埋めた私の頭を、温かい手が引き寄せた。都筑くんの、開いた首回りの素肌に顔がぶつかって、ひそかに慌てる。

彼はしばらくそうやって私の頭を片手でなでていたかと思うと、やがて「あー」とか「くそ」とか悪態をつき、ぎゅっと私を抱きしめた。すぐに引きはがし、勢いよくキスをしてくる。

弾みで後ろに倒れかけた私を、支えながらそのまま床に寝かせる。フローリングの感触を背中と後頭部に感じたときには、私は腹立たしそうな顔の都筑くんに見下ろされていた。


「人がせっかく…」

「なにがどうせっかくなの?」


倒れる間もシャツを握りしめていた私の手を取って、唇を当てる。都筑くんて、よくこうするよね。

なんだかんだ、熱っぽい光を宿しはじめた瞳が近づいてきた。


「言っておくけど、誰でもいいってわけじゃないからな」

「わかった」

「ほんとかよ」


ぼやきながらの、甘いキス。身体を重ねて、頭を抱いて、角度を変えて何度も柔らかく落とされる。

ほんとだよ。私だって、そのくらいうぬぼれるときも、あるんだから。
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