イジワル御曹司に愛されています
バッグからお財布を出そうとしていたら、手を引いてベッドに並んで座らされた。都筑くんはヘッドボードから煙草を取り、気持ちよさそうにくゆらせる。

白、黒、グレーで統一された、男の人の部屋だなあと感じる室内が、雑然と段ボールに支配されている様子を見回した。


「叔父さん、また来るかな」

「どうだろうなあ。手段は柔らかくしても、あの手この手で会社を手に入れようとは、するだろうな」

「次の社長さんは?」

「副社長が繰り上がる予定。この間流れたぶんと合わせて、臨時総会を開くんだろうな。叔父はそこで取締役になることを狙ってるはずだ。うちは取締役会の力が強いから、そこに入ればたいていのことはできる」


てことは、さらにそこに都筑くんのぶんの株が手に入れば、要職を自分の一派で埋め、やりたい放題の未来がかなり近づくってことだ。


「また監禁されたりしないよね…」

「尻尾つかまれたことを知ったんだぜ、そんな愚かじゃないだろ」

「もっと巧妙なやり口で来るとか…」

「大丈夫だよ」


心配の絶えない私を、都筑くんが笑った。


「俺も、ちょっとは腹決まったし、そうやすやすと隙は与えない」


口元に煙草を挟んだ指を浮かせて、ぷかりと煙を吐く。


「ほんとは、信頼してほしいんだけどな。前にも言ったけど、俺はあの人がトップになることには反対してない。善人だけがいいトップになれるってわけじゃないと思うんだ」

「あそこまでされても、そう思うの?」

「弱者に対してあれをやらなきゃ、いいよ。叔父だって、会社の繁栄に必要なのは従業員だってことくらいわかってるはずだ。そこさえ忘れなければ、頭の切れる人だし、汚いこともできる。案外強いトップになると俺は思うんだよな」


都筑くんて意外と能天気というか楽観的というか、人がいい。

生真面目に心情を吐露してくれる横顔を見つめながら、お父さんはきっと、彼のこういうところをわかっていたんだろうと思った。

叔父さんの危ないところもわかっていて、だから都筑くんをストッパーにして、いずれはふたりで会社を盛り立ててほしいって、そう願ったのだ。


「でも、叔父さんにそれは伝わってないと思うよ」

「気長に伝えるよ」

「また脅されたら?」


くわえた煙草を噛んで、都筑くんが宙を見つめる。「まあ、そのときは」と、気負いのない様子で口を開いた。


「お前の声、思い出すよ」


ほがらかな、迷いのない声だった。

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