イジワル御曹司に愛されています
倉上さんは悪びれず、持っていた資料を都筑くんに渡した。


「お昼ごちそうさせてもらって、ホールをご案内しようと思ってたんだ。お前がいた頃と内容変わってないから、よろしく」

「おい」

「えっ、俺が一緒にいたほうがいい?」


かわいらしく小首をかしげる姿が似合っていない倉上さんに、都筑くんは不機嫌な視線を投げ、ちょっと考えてから「いや」と低く言う。


「そうだろ、そうだろ。じゃあ僕、のちほどまた来ますね、千野さん」

「えっ、あの、倉上さん」

「ハバグッタイ!」


ああ彼も今日は英語脳なんだな、という雰囲気で、力強く都筑くんの肩を叩いて、来たときと同じように足取り軽く倉上さんは行ってしまった。

残された私と都筑くんは、気まずく顔を見合わせる。


「…とりあえず、昼行く?」

「あっ、うん。できたら道々、ほかのブースの説明してくれたら嬉しい…」

「了解」


ほんの少し目を優しく微笑ませる様子には、もうご立腹の気配はない。私は嬉しくなって、説明員をしている先輩社員に会釈をしてから、先を行く背中についていった。


「これ、まだ持ってたの?」

「ん?」


都筑くんが首に下げているのは、主催社パスだ。働いていた当時のものかと思ったら、「いや」と彼がそれを取り上げてひらひらさせながら舌を見せた。


「スタッフ専用口でビジョンの名刺使った」

「あー、いけないんだあ」

「このくらい、許されてもいいはずだ」


ふんと笑いながら、「このエリア」とにぎわう一帯をぐるっと指さす。


「ここはデベロッパーと製造業が集まってる。建設会社もあれば重工業もある。中小の開発事業者もいるし、ベンチャーで地方創生とかやってる会社も来てる。規模もさまざまなの、見てわかるだろ」

「多彩だね」

「一小間から出展できるから。なんとか出展費用を捻出して、ここでビジネスチャンスを得たいって団体も多いんだ」

「一小間って…」

「3メートル×3メートル」
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