イジワル御曹司に愛されています
「仕事だよ。叔父さんこそ、なにしてるの」

「ここの西館で、マーケティングフォーラムがあってな、呼ばれてる」


そういえば確かに、館内のあちこちにそういう掲示があった。当たり前だけれど怜二さん、普通に仕事もしているのか…。

私の驚きを見透かしたように、都筑くんがそっと教えてくれる。


「叔父さんは、うちの営業本部長だから」

「あれっ、じゃあ都筑くんの上司?」

「だいぶ遠いから、仕事では絡まないけどね」


会話する私たちを、頬杖をついて怜二さんが見上げ、面白くなさそうに言った。


「お前がとっとと課長クラスあたりまで昇ってくれば、絡みも増えるだろうがな。そもそもどうやってうちに入った? ちょっと目を離した隙にこれだ」

「その言い種だと、まだあきらめてないんだね、やっぱり」

「あきらめる? なんだそれ、うまいのか」


はっと鼻で笑って、文字でびっしり埋まった原稿みたいなものを揃える。ビジネスバッグから出したファイルにそれを挟むと、PCと一緒にしまい、席を立った。


「ここ使えよ」

「次、また千野にまで手を出そうとしたら、俺にも考えがあるよ」


静かな声で言ってから「あ、千野ってこいつ」と律儀に私を指す。怜二さんは空のコーヒーカップを持ったまま、都筑くんを見返した。


「考えだと?」

「社内に俺の味方も多いってこと、忘れてないよね。俺は叔父さんの権力が届かない下のほうで、味方を作りながら昇ってくよ。いずれ近い立場で会うかもね」

「お前の味方とやらは、数が多いだけでぼんくら揃いなんじゃないのか。気配も感じたことないぜ」

「表立って叔父さんに歯向かわないよう、細心の注意を払ってるんだよ、"俺の指示"でね。誰が敵かあぶり出されたら最後、つぶされて終わりだろ」


都筑くんが協調した『俺の指示』という言葉に、怜二さんがぴくりと反応した。忌々しいものを見るような目つきで、甥を眺める。


「お前の指示だと?」

「父さんと叔父さんの雲行きが怪しくなったあたりから、俺はずっとそうやって介入してる。ほんとに気づいてなかったなんて、やめてよ。今のポジションにつくまで、簡単すぎると思わなかった?」
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