イジワル御曹司に愛されています
冷徹な表情の下にうまく隠しているけれど、怜二さんは明らかに、まったく気がついていなかったのだ。内心の動揺を読み取ったのか、都筑くんは半歩、叔父さんに近づいた。


「まずい人たちとのつきあいも、ちょっと深みにはまりすぎたね。うちはクリーンで通ってる。叔父さんとあいつらが"密接な"関係である証拠を俺は持ってる。父さんの遺したものと合わせて出すところに出せばどうなるか」

「証拠だと? お前が?」

「乃木坂のバーは静かでいいよね」


相手が黙ったのを確認して、都筑くんの目が挑戦的に細められる。涼しげな口元が、笑みの形を作った。


「俺がなにも考えずに、ひねたボンボンやってると思ってた?」


怜二さんの胸に人差し指を向け、「甘いよ」とトンと突いた。


「俺が気に入らないんなら戦おう、叔父さん。ただし正々堂々と。そのほうが楽しいよ」

「楽しいだと」

「自由な時間は終わりだ。今後、無数の目に監視されていることを忘れないで。荒っぽいことして埃を巻き上げたら、それ全部自分でかぶってもらうよ」


昼間のカフェの片隅で、こんな会話が繰り広げられていると誰が思うだろう。表面上は穏やかに、仕事の話をしているようにしか見えない。

ふたりはしばらく見つめ合い、やがて怜二さんのほうが、ふっと笑って視線を落とした。


「お前、やっぱりあの兄貴の息子だな」


くつくつとひとしきり喉の奥で笑うと、おかしそうに都筑くんを見る。


「純情ぶっといて、食えねえ食えねえ。知らないところで手を回して、静かに罠を張っておくんだ、ちょうど今のお前みたいに。正直者の善良なオヤジと思われてたが、どっこい誰よりも老獪だったよ」

「そう聞いてたよ。父さんの下で働いてみたかった」

「そりゃ邪魔して悪かった」

「叔父さんが、父さんへの当てつけみたいにあくどいことをするのをやめて、その上でトップに立ったなら、俺は全力でサポートするよ」


発言の真意を探るみたいにじっと都筑くんを見て、やがて怜二さんは出口のほうへ足を向けた。


「ヒラがなに言ってやがる」


苦笑まじりにそう言って、私たちの横を通り過ぎる。
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