イジワル御曹司に愛されています
「狭いね、世間」

「狭い」

「あちこちから期待をかけられて、嬉しいね」


自分も食べる気なのか、ケーキの入ったガラスケースを見つめながら、口をぎゅっと真一文字に引き結ぶ。やがて、ふくれつつ強がる声がした。


「参っちゃうよな、人気者で」





空に浮かぶ飛行機のサイズが、いつもの4倍くらいある。


「ここ、空港近い?」

「だって東京湾の埋め立て地だぜ。さてはお前、地図描けないタイプだろ」


うっ。

軽い食事を済ませた後、なんとなく遠回りをして会場に戻っている。強めの日差しに、海から来る風が気持ちよくて、いつまででも歩いていたい。

"地図が読めない"でなく"描けない"というのはかなり鋭い。実際読める。でも家の周りを地図にしてみろと言われたら、絶対に無理だ。歩き倒して道を覚えてはいるけれど、俯瞰したマップが頭の中にあるわけじゃないのだ。

都筑くんも気持ちよさそうに短い髪を風に揺らし、時々まぶしそうに目をすがめる。


「はい」

「あっ、ありがとう!」


ふいにポケットから飴を出して、ひとつを口に入れ、ひとつをくれた。


「嬉しい、やっと前の食べられる。もうバッグの中で溶けちゃってるの」

「そうなる前に食ってやれよ」

「どんな状態でも絶対食べるから、いいの」


もったいなくてすぐには食べられないんだってば、ほっといて。

古いのを包装と格闘しながらなんとか口に運び、次の機会まで今もらったのを大事にとっておこうとバッグにしまう。


「さっきさあ、期待って話が出ただろ」

「うん?」

「俺、小さいころから親父に期待されたくてがんばるたちで、でも自分の生まれを知ってからは、素直にそれができなくなっちゃってさ」


飴を舐めながらうなずく。


「だけどずっと、ほんとはがんばらなきゃいけないのにって焦ってた」


やがて敷地を区切る、殺風景なフェンスに出会った。そこからだとちょうど、真正面に飛行機が見える。今もまさに、離陸したばかりの機体が、ぐいぐいと斜めに空を昇っていくところだった。

胸の高さのフェンスに腕をかけて、私はそれを眺めた。


「そうだったんだね」

「だからお前みたいに、がんばってる感じの奴がすごく目について、うらやましかったし、妬ましかった」

「私、がんばってた?」


隣を振り向くと、フェンスに片肘を置いた彼が、空を指さした。


「…あっち向いててもらえる?」

「えっ? うん」


なんで?

首をひねりつつも、言われた通り、また空に向き直る。
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