イジワル御曹司に愛されています
「少なくとも俺にはそう見えたんだ。その印象は、仕事で会ってからも変わらなくて、それが嬉しかった。自分のままで楽しそうで、いつでも一所懸命で、人のためにがんばれる奴で」


わ、え、なに、くすぐったい。

顔をそむけて相槌を打つのも失礼な気がして、なにも言えず、飛行機もいないのに空を見上げ続ける。

けれど都筑くんの言葉はそこで止まってしまい、なかなか次が来なかった。

たっぷり一分は待ったころ、さすがにと思い顔を動かしたときだった。


「やっぱり好きだと思った」


私は約束を破った自覚もなく、すぐ横で頭を抱えている姿に、ぽかんと口を開けて見入った。


「ごめん、今ごろ…」


心底悔いてるように、申し訳なさそうに絞り出される声。

呆然としていたら、ふと顔を上げた彼と目が合ってしまった。その顔がかっと赤らむ。


「あっち向いてろって言っただろ!」

「ご、ごめん!」


謝りながらも、今さらと思い、むしろ遠慮なく彼を観察した。都筑くんはあからさまに顔をしかめ、またフェンスのほうを向いてしまう。

口を何度かもの言いたげに開いては閉じ、もどかしそうに手で顔を覆い、その後でようやく、言葉が出てきた。


「俺、千野が好きだ」


見ているそばから、耳が赤くなっていく。


「たぶん…ずっと」


──苦手だった人。

怖くて、悪い噂ばっかりで。私を見るとバカにした笑みを浮かべて、用もないのに声をかけてくる。

その彼が目の前で、こんなふうに声を硬くして、恥ずかしさといたたまれなさに苛まれながら、必死に気持ちを伝えようとしてくれている。

すぐ裏手にある駅から、クウクウと人工の海鳥の声が聞こえてくる。

ねえ、こんな瞬間を、どうやって想像できた?


「都筑くん」


顔を手に埋めたまま、「なに」と返事がある。
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