イジワル御曹司に愛されています
「写真撮っていい?」


がく、と彼がうなだれた。


「お前、人が勇気振り絞ってんのに…」

「だからこそ、この瞬間を、残しておきたいなって」


赤らんだ顔でこちらをにらんでくる彼に携帯を向けたら、即座に取り上げられた。「返して」と手を伸ばしても、長い腕の先には届かない。

彼はふんと私を一瞥し、携帯をスラックスのポケットに入れてしまった。


「茶化しやがって」

「茶化してないよ、舞い上がってるよ」

「ほんとかよ?」


ほんとほんと、とうなずいてみるも、信じてもらえていないのが顔でわかる。仕方ないよ、私だってふわふわ浮ついていて、この事態に現実味がまったくないんだから。

納得していない様子で、都筑くんが「俺も」とフェンスにもたれかかった。


「舞い上がった。千野に言われたとき」

「えー?」


思わず懐疑的な声をあげた私を、じろっと見る。慌てて口をつぐんだ。


「信じられないくらい嬉しかったよ。でも俺は、知っての通りごたごたの真っ最中で、千野を巻き込むのも嫌だったし、なにより自分に余裕がなくて、あんな言い方しかできなかった」

「そうだったんだね」

「今さらだけど、ごめん」

「いいよ」

「あと、その、中途半端にしておきながら、おいしいところだけもらうようなまねして、ほんとごめん、悪かった。反省してる」


髪をかき上げる、その口調がいきなりしどろもどろになったので、私のほうが戸惑ってしまった。なんのことを指しているのかわかって、顔が熱くなる。


「う、ううん、そんな、あの、それはもう、お互いさまで」

「お互いさま?」

「えっと、私のほうも、その、十分おいしい思いを」

「あ…あ、そう?」
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