イジワル御曹司に愛されています
私まで一緒になってしどろもどろだ。

並んでフェンスに腕をかけて、無言で空を見つめる。なにこの間…。

ちらっと横目で互いを確認したのは、同時。そのとき強い風が吹いて、首から提げていた私のパスが煽られ、紐がするりとほどけた。

フェンスの向こうに行ってしまいそうになったパスに、急いで手を伸ばす。私の指先が届くより先に、追いついてきた腕が、それをつかまえた。

身体がぶつかって、見下ろす目と出会って、次の瞬間には唇が触れていた。どちらからしたとも言えない、当然の流れのようなキス。


「…ごたごたが全部解決したわけじゃないし、この間みたいな危ないことはさすがにないと思うけど、これからも千野になにか、迷惑かけることがあるかも」

「うん」

「俺、戦うって決めたけど、またいつか疲れて泣き言吐くかも」

「うん」

「それでも一緒にいてもらえる?」


まじめな顔で問いかけられて、"一緒にいたい"と言ったのは私だと思い出した。あんな、流れの中の一言を、ちゃんと聞き取ってくれていたんだ。


「うん」


いろいろと、もっと大げさな言葉とか、喜びにあふれた表現とか、浮かびはしたんだけれど、出てこなかった。

優しい微笑みが寄せられる。触れる寸前、視線を合わせて彼がささやいた。


「好きだ」


唇を合わせながら、私を両腕で抱き寄せて、やがて唇を離して、本格的に抱きしめる。ぎゅっとくっついた身体から感じる、忙しない鼓動。

私の肩に顔を埋めた都筑くんが、深いため息をついた。


「言えた…」


あまりに安堵に満ちた、か細い声だったので、私は笑ってしまった。

視界いっぱいに広がる空が、まぶしかった。



< 149 / 196 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop