イジワル御曹司に愛されています
その先に見えるもの
「あの、これ…」

「いやー、いい雰囲気のふたりがいたもんだからさ、ついシャッターを」


念願の写真は、思わぬところから提供された。

松原さんが無邪気に、はははと笑う。


「どこから…」

「渡り廊下から」


再びの控え室で、携帯を握りしめ、私は大汗をかいた。画面では私と都筑くんがフェンスに体重を預け、楽しそうに会話している。

あの、この前後、私たち、けっこう、なんというか。


「あんまりいちゃいちゃしてるところは、さすがに悪いから、目に焼きつけておくだけにしておいたよ」


やっぱりそこも見られていた…!


「都筑くんの連絡先わからないから、倉上さんに転送を頼んでおいた」


それ嫌がらせです!

倉上さんにまで見られたと思うと、わああと絶望したい気分になり、真っ赤であろう顔を両手で覆った。

でもこの都筑くんは、優しげな笑顔がとてもいい。保存しておこう。


「いいなあー、高校のときの同級生と、再会して恋に落ちるとか」

「いえっ、あのですね、いろいろ、いろいろありまして」

「もとはといえば僕が、彼の飛び込みを蹴らなかったおかげだよね。僕はキューピッドともいえるんじゃないだろうか」

「はあ…」

「さあ、午後もがんばろう!」


すっくと椅子から立ち上がると、私の背中を叩いて出ていってしまう。

狭い控え室にひとり取り残され、とりあえずこの顔の赤みをなんとかしないと出られない、と途方に暮れた。


* * *


「駅の裏、いろんなお店あるね」

「あ、そう?」

「見てないの?」
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