イジワル御曹司に愛されています
まるで私にも彼のことが見えていると思わなかった、みたいな感じに、今その必要に気づいたような雰囲気で紹介してくれる。


「うちの顧問弁護士。あ、会社のね。で、親父の学友」

「名央がお世話になっています」


50代に手が届くくらいの年齢だろうか、柔和な顔が、にっこりと微笑む。やっぱり見覚えがある、と考えていたら、彼のほうがヒントをくれた。


「その節は、不審がらせてしまい、失礼しました」

「…あ!」


わかった、都筑くんの、以前のマンションの前にいた人だ! わあ、叔父さんの手先なんかじゃなかったんだ…!


「わ、す、すみません、私こそ、とんだ失礼を」

「いえいえ、勇敢な方が名央のそばにいてくださるのだと、心強く思いましたよ」

「なんの話?」


怪訝そうに眉をひそめる都筑くんに、私があらぬ言いがかりをつけて追っ払ってしまった話をすると、ものすごい目つきで見下ろされた。


「お前、それ、ほんとに叔父さんの仲間だったらどれだけ危なかったと…」

「だから、ごめんなさい。知らなかったの、そんなに危険だなんて」

「まさか俺の知らないところで、ほかにも似たようなまねしてんじゃねーだろうな」

「してないです、それだけです」


あのときは気が立っていて…。

信じて、と必死に頭を下げる。実際あんな目に遭った後ならわかる、どれだけ危なっかしいことをしていたか。


「でもそれでわかった、いいタイミングで連絡入ったの」

「怜二が動いたと聞いてましたんでね、もしやと思って張ってたんです」

「あっ、あの電話?」

「そう、久芳さんがかけたんだよ。社内で面と向かって叔父に対抗している、唯一の存在だ。ほかの同じ立場の人のカモフラージュにもなってくれてる」


はあ…。

そのポジションこそ危険なんじゃないのか。でもそうか、都筑くんには、そうまでして守ってくれる人が、ちゃんといるんだ。

切り札を武器に、ようやくその人たちと一緒に、叔父さんの独裁に立ち向かう準備が整ったのだ。
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