イジワル御曹司に愛されています
やけっぱちに出した声は、想像を超えて響き、一瞬個室内がしんとした。やってしまった…と真っ赤になって悔いるも、もう遅い。

私は都筑くんの手を振りほどいて、腹立ちと恥ずかしさを紛らそうと、まっすぐ正座し直した。

父親のような年齢の先生ふたりが、明るく笑ってくれる。


「千野さん、ぽっちゃりしてたの?」

「いいじゃない、若い子なんて、そのくらいじゃないと」


ううっ、当時を知らない人から慰められると、よけいみじめだ。

成人したあたりからするすると減りだしたものの、高校のときの私の体重は、今より5…いや、6、7キロはあった。


「ありがとうございます…」

「まあ飲みなさい、これ、まだ口つけてないからあげる」

「あっ、いただきます」


恥をかいたおかげで喉が渇いていたので、渡された小振りのグラスを、中身を確かめもせずにぐいとあおった。とたんにくらっと来る。あれっ、なにこれ。


「千野、やめとけ、それウイスキーだ」

「えっ!」


そんなもの初めて飲んだ!

横から都筑くんの手が伸びてきて、取り上げようとする。私はグラスをかばうようにして抵抗した。


「なんだよ」

「だって、いただいたものだから」

「なに意地になってんだよ」

「意地じゃなくて、礼儀」

「は? 飲めもしねーくせに抱えてんのが礼儀?」


なにもそんな言い方しなくたっていいじゃない…。


「がんばって飲む」

「がんばったところで分解酵素は増えねーよ、渡すのが嫌ならこれにあけて」


テーブルの下で、飲み干されたグラスが差し出されている。それでも迷い、対面の席をうかがう私に、都筑くんが耳打ちした。


「ふたりとももういい具合に酔ってるから、大丈夫だよ」


私は思い切って、グラスの中身をさっとあけた。


「うう、ごめんなさい…」

「俺が飲んどくから、このくらいで気に病むな」


酎ハイなんかを入れる、大ぶりのグラスに入ったウイスキー。彼はそれを氷と一緒に、まるでコーラかなにかみたいに飲んでしまう。
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