イジワル御曹司に愛されています
ここまでするのか。

怜二の、エスカレートしていく容赦のなさが恐ろしく思えた。この自分に対しても、ここまでするのか。

優しい叔父だった。父親と一緒に暮らせない名央にとって、頼れる身近な男として、かけがえのない存在だった。


「どこで捕まったんです?」

「マンションの目の前」

「…今度引っ越すときは、エントランスから一帯の道路が見渡せる構造のマンションにしなさい」


そんなこと言われてもさ、と小さく愚痴った。


「そもそも、わざわざ会社を休んでまで行くことはなかったんですよ。今回の取締役の退任には、怜二が神経質になっていると教えたでしょう」

「通知がぎりぎりまで届かなかったんだよ。議決権行使書の、事前送付の〆切を過ぎてからぽろっと届いたんだ。行くしかなかった」

「…手が込んでますね」


まったくだ。


「でもさ、もし期日までに発送していないんだったら、向こうが会社法違反したって言えるんじゃない」

「ふむ、その通り」

「ご丁寧に、前の住所宛になってたんだ。配達が遅れたことの言い訳を作ろうとしたんだと思うんだけど、俺は株主名簿の変更手続きを、ちゃんとしてる」

「名簿の宛先に送らなかったんだとしたら、それも違法ですね」

「手続きしたときの控えもある。『名簿が古いままでした』は通らないぜ」

「ちょっとやってみましょうか」

「お願い」


久芳が言っているのは、社内を嗅ぎまわって証拠集めをしておくということだ。うまく証拠が手に入ったとしても、つまらない違反ばかりだがないよりいい。

こうやって、怜二の悪辣な手段の証拠を、そっと集めておこうと考えだしたのは名央だ。久芳に動いてもらった結果、ちりが積もって山になっている。

最初から山レベルの証拠も、ようやく手に入れた。

俺はいつでもあんたを破滅させられるよ、叔父さん。

威勢のいいことを胸の中で唱え、笑ってしまった。自分の鞄を持ち上げる力も残っていないくせに、なにを言っているんだか。

──そうだ、鞄。
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