イジワル御曹司に愛されています
少し気持ちが明るくなり、名央はほとんど飲まずに帰ろうと思っていたアルコールを、もう一杯頼むことにした。

今日は金曜日。明日も仕事がある。適当に切り上げて、帰って休もう。

気を抜くと千野のことを考えてしまい、そうするとむしゃくしゃした気分まで一緒についてきてしまうので、明日の仕事の段取りを、頭の中で忙しく練った。


* * *


「名央、大丈夫ですか」


運転席から、久芳が気がかりそうにルームミラーを見た。

穏やかに走る車の後部座席にうずくまり、名央は「うん」と力なく返事する。


「水は飲んでいたんですよね、手洗いも?」

「大丈夫。ものすごい狭い賃貸住宅みたいな部屋で、洗面もトイレもついてた」


ぎしぎしうるさいパイプベッドが部屋の大半を占めているような狭さだった。株主総会に行こうとマンションを出たところで車に押し込まれ、目隠しされて連れていかれたので、場所がどこだか今知った。皮肉にも、総会が開催されている本社のすぐ近くだ。

そりゃそうか、と冷えてきた汗に身体をぶるっと震わせて自嘲した。怜二も総会を見守っていたのだ。正確には総会が開催されないことを確認していた。

名央のことも、目の届くところに置いておきたかったに決まっている。


「寒さは?」

「平気、ヒーターがあって、暑かったくらい」

「名央は狭いところが嫌いですもんね、きつかったでしょう、かわいそうに」


出られた安堵からか、歯の根が合わなくなってきているのを感じながら「なんで知ってるの」と尋ねた。


「名央をこらしめたいなら、どこかに閉じ込めて鍵をかければいいと陽一に教わっていたので」

「狭いところが嫌いなんじゃないよ。自力で出られない場所にいるのが嫌なの」


たとえだだっ広い部屋だったとしても、外から鍵をかけられていたら自分は今日と同じように、口もきけないほど消耗しただろう。

総会に行かせたくないだけなら、数時間閉じ込めておけば済んだはずなのに、名央は半日以上閉じ込められていた。目的はひとつ。名央にダメージを与えるためだ。
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