イジワル御曹司に愛されています

Ending

「あれ、都筑?」

「げっ」


仕事終わり、協会の近くのカフェで千野を待っていたら、倉上が来た。タイミング悪く、協会で打ち合わせをしていたらしい。


「なに、このへん営業ルート?」

「るせーな、お前に関係ねーだろ」

「そんな嫌がるふりしなくても、お前の心は筒抜けだ!」

「じゃあお前がお呼びじゃねえってことくらいわかるだろ、早くどっか行け」

「照れ屋さんは治ってないんだなー」


いいかとも聞かず、名央の正面の席に座ると、倉上は通りかかった店員にコーヒーを注文した。相変わらず自由だな、と感心する。


「協会さんと続いてるんだ?」

「おかげさまでねー。今は次回のために、今回の出展計画とかレポートとかをまとめさせてもらってる。うちもクリーンエネルギーは今後継続的に扱ってくだろうしね」

「そっか」


千野をよろしくな、と喉まで出かかったけれど、気恥ずかしくてやめた。

自分が退職するときには言えたのに、千野とこうなった今となっては、ちょっと言えない。


「都筑は? 相変わらず偉そうに働いてんの?」

「偉そうってなんだよ」

「だって、創業者の一族なんだろー? 窮屈そうだよなあ、負けんなよ」


思いがけずさらりと励まされ、調子が狂ってしまう。

小学生のころ、家に遊びに来たクラスメイトが口をあんぐり開けて『城だ』と言ったことがあった。翌日からクラス内の自分への温度が、微妙に変化したのを感じた。

気軽な子供同士の約束だったのに親がわざわざ送り届けに来て、半畳ほどもありそうな菓子折りを持ってきたこともあった。

『行っちゃダメって親に言われた』とキャンセルされたこともあった。

バカバカしくも苦々しい、幼心に傷ついたそんな記憶たちが、ようやく笑いごとのように思えてくる。
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