イジワル御曹司に愛されています
「ありがたいんだけどさあ、お前さあ、なんていうかさあ…」

「賢いだろー? 役に立つし、保管するのも邪魔じゃないし」


倉上の手が、名央が鞄に入れようとしたそれをまた取り上げた。自分の功績を確認するように、せっかくしまったのを取り出し、眺めだす。


「よくみんな書いてくれたな」

「え、気が利いてるってすごい好評だったよ」

「もらう立場になってもそれ言えんのかよ…」


というか、もう少し渡す場所を選べよ…。

まあこれも、計画のうちに違いない。さすが倉上、自分が楽しむためなら労を惜しまない。


「いいじゃん、使うたびみんなのこと思い出せるんだぜ?」

「萎えるわ!」

「そんなの、彼女にまた元気にしてもらえばいいだろー」

「あのな、千野はまだそんな芸当…」


噛みつくように言い返しかけて、失言に気がついた。

こちらに向けられた倉上の目が、みるみる見開かれていく。


「えっ…なに、いや、そうじゃないかとは思ってたけど、まさかほんとに」

「あの、倉上、今のは」

「マジで千野さんなの? えええ、焼けぼっくいに火がついた的な?」

「違う違う、それは違う」

「なにが営業だよ、彼女待ってんじゃん!」

「営業って言ったのはお前だよ!」


きゃー!と女子みたいな声をあげ、倉上は喜んでいるんだかからかう気満々なのかわからない顔で、目をきらめかせている。

ドアベルが、コロンと鳴った。

はっとしてそちらを見れば、よりによってこのタイミングで千野。走ってきたようで、乱れた髪を手で直しながら、店内を探している。名央を見つけ、その顔が輝いた。
< 195 / 196 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop