イジワル御曹司に愛されています
「千野さ…」


呼びかけようとした倉上の口を手でふさぐ。


「まずそれしまえ」


むぇー、という声が手を押し戻した。


「それと、さっきのは千野には言うな」

「芸当ってやつ? 千野さんやっぱ初心なんだな、かわいいな」

「そういうことを言うなって言ってんだよ…」

「都筑が真っ赤だよー、すげー」


いやらしく目を細める倉上の喉元を締め上げた。

こうしている間にも、千野が近づいてくる。当然もう、倉上がいるのに気がついていて、戸惑いがちな笑顔を浮かべながら。


「おかまいなく、千野さん、僕もう消えますんで。これ渡したら」

「しまえ!」

「あっ、しまった」


わざとらしく倉上が、千野の足元にそれを落とす。

6包つづりのプラスチック包装を、不思議そうにしながらも千野がためらいなく拾い上げ、じっと見つめて、なんであるか気がついたらしかった。

ふわっと耳まで染めて、名央をにらむ。

えっ、なんで俺だよ…、俺だって被害者だよ。


「うわあ、千野さんも真っ赤、かっわいい」

「お前がかわいいとか言うな」


調子づいた倉上の顔を、正面からぴしゃっと叩く。倉上は器用にそれを手でガードして、にやりと名央に笑いかけた。


「つまり俺しか言っちゃダメってか?」


目を泳がせた先で、千野と目が合った。手に持ったものをどうしたらいいのかわからないらしく、佇んだままだ。

微妙にこちらを非難しているような、助けを求めているような、そんな表情をされて、どうしたらいいかわからなくなる。

にたついている倉上に視線を戻し、また千野を見て、再び倉上。くそ、と内心で毒づいて、熱い頬を自覚した。

誰に向かって言えばいいのかも、もはやわからない。

悔しさと気恥ずかしさに負けそうになって、唇を噛んだ。なんでこんなこと言わされなきゃいけないんだ、情けない。


「そうだよ」


ようやく出てきた声は我ながら子供っぽい響きで。

大笑いの倉上と、赤さを増した千野に挟まれ、どうするんだよこの後、と途方に暮れた。



- End -

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